低自尊心者が、過度の安心さがし行動を採ることによって、親しい友人からの評価を引き下げ、拒絶を引き起こすという下方螺旋過程の存在が示されてきた。本研究の目的は、この不適応な対人プロセスが、重要他者と共有しない、多様で独自なネットワークを多く持つことによって、当該重要他者との間で発生するストレスを低減させ、精神的健康を維持させる機能を持つだろうという仮説を検証することである。 昨年度までの検討によって、低自尊心の女性が独自ネットワークを持つ場合、恋人に対して安心さがしを行っても相手の評価を下げず、逆に恋人から頼りにされているという相手の評価を高めることが示された。また、低自尊心の男性はより閉鎖的な関係において安心さがしを行うほど、相手を信頼し、依存していく可能性が示唆された。 本年度はこれらの検討結果について、相手の自尊心レベルという新たな観点を加え、さらなる検討を行った。恋愛関係にある男女90ペアに対する調査の結果、低自尊心の男性が、高自尊心の女性と恋愛関係にある場合、相手からどのように評価されると思うかという反映的自己評価が低いことが明らかにされた。これは、低自尊心の男性が、高自尊心の女性とつきあう中で、様々な形で上方比較を行う機会が増え、その結果、相手からあまり肯定的に評価されていないという認知が形成されたと解釈できる。また、低自尊心の女性と高自尊心の男性がペアになった場合には、上述したような反映的自己評価の低下は見られなかった。 これらの結果は、自分に自信のない低自尊心の男性が、自分に自信のある高自尊心の女性とカップルになった場合、男性の方が女性をリードすべきであるという伝統主義的な性役割観と実際の対人行動とのズレを感じ、苦しむ可能性を示唆する。その結果、低自尊心の男性は、パートナーの女性からあまり高く評価されていないと反映的に自己評価することになってしまうと考えられる。
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