選好はしばしば意識化や言語化の困難な要因によって左右される。そのため、人はしばしば自らの選好を左右する要因を特定することに失敗し、実際と異なる要因に基づいて選好の理由を説明する。本年度は、こうした原因の取り違えを誘発する条件と、原因の取り違えが個人の判断に及ぼす影響にういて2つの実験を通して検討した。 研究1経路選択 経路選択においては、時間・距離が節約される程度や経路上の店舗の利便性は、その経路を選択する有力な判断材料になる。本研究では、昨年度に続き、こうした一見誰もが重視するような要因ではない要因によって、経路が選択されることがあること、また、そうした決定においては、選択者は実際には異なる要因に基づいて選択理由を明することがあることを、地図を用いた選択課題において検証した。その結果、幾何学的な空間構成が経路選択に強いバイアスを与えることが確認された。こうした空間に、店舗などを視覚的に配置すると、選択者はこれらの店舗の種類に基づいて選択を行ったと誤って認識することが確かめられた。 研究2美的選好の判断 美術作品の美しさを言葉で表現することは、美術に精通している個人でも困難な作業である。この研究では、好みのような言語化が困難なことを言語化することが、個人の感性に与える影響を検討した。参加者は、好きな理由も嫌いな理由も記述しやすい具象画とどちらも困難な抽象画の2枚の絵画作品を与えられ、それぞれのきな理由ところ、あるいは、嫌いなところを記述するよう求められた。好ましく感じる理由を記述した群は具象画を好きだと判断したが、嫌いなところうした選好の逆転は生じなかった。人は、言語化が容易な特徴やもっともらしい理由となりやすい特徴に極度に注目し、好みを判断する傾向があることが示唆された。
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