研究概要 |
ワーキングメモリキャパシティの個人差と状況を超えた判断の枠組みである認知判断傾向(e.g.,ボトムアップ型処理ノトップダウン型処理への志向性)との関連性について検討した。その結果、キャパシティが豊富な者は、ボトムアップ型の情報処理によって精神的健康が促進されることが示された。対して、キャパシティが乏しい者は、ボトムアップ型の情報処理によって精神的健康が抑制されることが示された。すなわち、ワーキングメモリキャパシティの個人差が認知判断傾向と精神的健康指標との関連性に対する調整要因として機能していることが明らかとなった。 続いて、ワーキングメモリキャパシティの個人差が、印象形成場面における人物のスキーマ的判断に及ぼす影響について実験的な検討を行った。被験者に、対象人物について外向的な性格特性と中性的な性格特性を示した紹介文を提示した。その結果、ワーキングメモリキャパシティが乏しい者は、対象人物の情報を処理するための時間が短い場合だけではなく、十分な処理時間が確保された場合であっても、対象人物に対して外向性スキーマに基づく印象を形成した。キャパシティが乏しい者はどのような情報処理状況であれ、トップダウン型の処理を行いやすい可能性が示唆された。一方、キャパシティが豊富な者は、対象人物の情報処理時間に十分な余裕がある場合には、外向性スキーマを利用した印象形成が抑制された。また、キャパシティが豊富な者は、キャパシティが乏しい者と比較して、対象人物に対する紹介文をより正確に記憶していることが示された。これらの研究から、ワーキングメモリキャパシティの個人差とともに対人的な情報を処理する社会的文脈が、対人コミュニケーションにおける情報処理過程を規定することが示された。
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