研究概要 |
本研究の目的は、ワーキングメモリのキャパシティ(Working Memory Capacity: WMC)の個人差が対人コミュニケーションにおける情報処理過程に及ぼす影響を明らかにすることである。Barret, Tugade, & Engle(2004)はWMCの個人差が、様々な情報処理において注意をコントロールする能力の個人差を生じさせると主張している。そして、WMCが乏しい人は"認知的倹約家(Taylor, l981)"として、WMCが豊富な人は"動機付けられた戦略家(Fiske & Taylor, 1991)"としてその特徴を描くことができると指摘している。そこで、外向性スキーマを活性化させる刺激人物を提示し、WMCの個人差および情報処理時の課題負荷が印象形成に及ぼす影響を検討した。その結果、WMCが乏しい人は、印象形成時の認知的負荷の高低にかかわらずスキーマと一致する印象を形成するが、WMCが豊富な人は、認知的負荷が低い場合(情報処理時間に余裕がある場合)にはスキーマと一致する印象を形成しにくいことが示された。続いて、WMCの個人差と情報処理を行う際の動機付けが、人物プロフィール文の記憶と印象形成内容に及ぼす影響について検討した。その結果、WMCの個人差によってポジティブ・ネガティブなプロフィール文の再生数に差は認められないが、WMCが豊富な人は中性プロフィール文をより多く記憶していることが示された。さらに、印象形成における正確さ動機付けの影響は、WMCが乏しい人においては認められないが、WMCが豊富な人において認められることが明らがとなった。まとめると、WMCが豊富な人は、状況に応じて対人情報処理過程を使い分けることができるが、WMCが乏しい人はそのような使い分けが困難である可能性が示された。
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