研究概要 |
本研究では、ワーキングメモリキャパシティの個人差が対人認知における期待効果の抑制に及ぼす影響について検討した。Neuberg (1989)は、印象評定においてネガティブな対人期待がある場合にはカテゴリー依存型処理によって否定的な印象が形成されやすいが、「正確さ」目標を導入するとそのような処理が抑制され期待効果が消失することを見出している。そこで、キャパシティが乏しい者は "認知的倹約家" 、キャパシティが豊富な者は"動機づけられた戦略家"としての特徴を持つ可能性が指摘されていることから (Barett, Tugade, & Engle, 2004) 、キャパシティが乏しい者よりも豊富な者において正確さ目標の導入による期待効果の消失が認められると予測した。大学生の実験対象者に、刺激人物について「カンニングをした」「けんかして補導された」などの好ましくない行動を含めたプロフィールを提示した。目標あり条件では「好ましくないものも含まれるが、できるだけ正確に理解するように」と教示し、目標なし条件では「印象評定」を行なうように求めた。分析の結果、ネガティブな印象評定の値はいずれも「どちらともいえない」の付近であり、条件の差は認められなかった。一方、ポジティブな印象評定については、キャパシティが乏しい者では教示による差が認められず、いずれもやや望ましい印象が形成されていた。一方、キャパシティが豊富な者は、目標あり条件よりも、目標なし条件においてよりポジティブな印象を形成する傾向が認められた。このような結果は、キャパシティが豊富な者において期待効果が消失することを直接的に示すものではないが、キャパシティが乏しい者は情報処理目標の影響を受けにくいことを示しており"認知的倹約家"としての特徴が反映されていると考えられる。
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