H18年度には、(1)意図性推論と他者の行為への非難・賞賛の関係についての場面想定法実験、(2)謝罪者の意図の推論に関する場面想定法実験を行った。研究(1)では、Malle & Bennett(2002)の実験結果より、行為に意図があったと知覚された場合、ネガティブな行為への非難が増大する程度の方がポジティブな行為への賞賛が増大する程度よりも大きいと予測した。実験1では、10〜20種類の日常的なポジティブもしくはネガティブな行為の記述を読んだ参加者に、その行為が意図的に行われた程度の推測と、それが非難・賞賛に値する程度を評定してもらった。その結果、予測通り、意図性を知覚した者ほどより強く賞賛・非難する傾向があり、その効果はネガティブな行為の場合に特に大きかった。実験2では、参加者にそれぞれの記述で明示的に意図性を操作し、当該行為が非難・賞賛に値する程度を評定してもらった。その結果は、やはり仮説を支持するものであった。研究(2)では、対人的な相互作用で意図せずに他者に損害を与えた者が、どのような謝罪を行えば効果的に相手の怒りを鎮めることができるか(悪意がなかったことを効果的に伝達可能か)を検討した。ここでは、経済学のシグナリング・ゲーム及び生物学におけるコミュニケーションの進化に関する理論(ハンディキャップ原理)から、謝罪に含まれるコスト(与えた損害の補償に関する約束等)が怒りを鎮める重要な要因であると予測し、この予測を支持する実験結果を得た。
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