H19年度には、H18年度に行った謝罪意図の推論に関する場面想定法実験を拡張した追加的な場面想定法実験を行い、H18年度の結果を確認した。及び同様の内容を行動データとして確認する実験室実験を行った。これらの実験では、対人的な相互作用で意図せずに他者に損害を与えた者が、どのような謝罪を行えば効果的に相手の怒りを鎮めることができるか(悪意がなかったことを効果的に伝達可能か)を検討した。ここでは、経済学のシグナリング・ゲーム及び生物学におけるコミュニケーションの進化に関する理論(ハンディキャップ原理)から、謝罪に含まれるコスト(与えた損害の補償に関する約束等)が怒りを鎮める重要な要因であると予測した。上記の2つの実験の結果はこの予測を支持するものであった。また、ハンディキャップ原理とコミュニケーションに関わる問題に、言語の正直さの問題がある。謝罪場面に即して言えば、他者が口で謝ることにも相応の効果がある。このような口頭での謝罪が何のコストも含まないにも関わらず、相手から幾分か信用されることは生物学的には大きな謎である。これに対して、Lachmannらは虚偽に対する他者からの制裁が口頭言語の正直さを支える鍵であるとする議論を展開している。上記の謝罪実験に加えて、虚偽に対して人々が義憤を感じ、制裁を加えるのかどうかを実験により検討し、これを支持する結果を得た。上記の二つの系統の研究は、いずれも研究論文としてまとめ、現在、学術雑誌において審査中である。
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