H20年度には、H19年度に謝罪場面においてコストリー・シグナリング理論の予測を検討し、その妥当性を確認したことを受け、配偶者選択場面においてコストリー・シグナリング理論の予測の検討を行った。具体的には、潜在的な配偶者に対して自分が相手を真に愛しており、長期的なコミットメント関係を形成する意図があることをいかにして相手に伝えることができるかを検討した。コストリー・シグナリング理論に基づき、特に男性は潜在的パートナーに対してコストをかけて求愛することによって、自分の愛情が誠実なものであることを示すことができると予測した。例えば、高価な贈り物を贈る、忙しい時間を削って相手と一緒に過ごすなどである。これらのコストはく短期的配偶戦略を採用し、できるだけ多くの女性と関係を持ち、長期的なコミットメント関係をもつ意図のないものには支払うことのできないコストであり、特定の女性との関係にコミットしており、かつその女性と長期的な配偶関係に留まる意図のある男性にのみ産出可能なシグナルになると考えられる。今年度は、場面想定法を用いた実験により、同じ結果をもたらす行為であっても、それが行為者にとってコストのかかるものであったときに、相手が愛情とコミットメントを感じ取ることが示された。ただし、興味深い例外は、金銭的なコストによるシグナルであった。これに関しては、女性は相手のコミットメントを読み取りにくいことが明らかとなった。これは、金銭の浪費によるシグナルが、男性の社会的地位のシグナル(したがって、多くの女性と関係をもとうとする短期的配偶戦略でも用いられるシグナル)であるからかもしれない。
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