研究概要 |
集団の規模が大きく、匿名性の高い上状況では向社会的行動が進化しにくい(e. g.,Boyd & Richerson,1988)。血縁関係や評判、罰などを前提とせず大集団における協力を説明する一つの説として、Boyd & Richerson(2005)は文化伝達のシステムを挙げている。適応度の分散を集団内で減らし集団間で増幅させる文化伝達のシステムが、向杜会的行動の進化を促進するという主張である。自らが所属する集団に利する協力者は個人間の競争(集団内における競争)では非協力者に比べて不利だが、一方、非協力者が多い集団は集団間での競争に敗れる。従って、集団内の行動分散が集団間の分散に比べて十分に少なければ(極端な場合、全ての集団が協力者だけか、あるいは非協力者だけから構成されているような状況)、非協力者は絶滅し、協力的なグループだけが生き残る。この文化伝達のシステムが発生し維持されるためには、個体レヴェルで他者の行動に影響を受ける社会的感受性(頻度依存傾向)が必要である。すなわち、社会的学習の能力に支えられた文化伝達(中西・亀田,2002)が、多層淘汰(Sober & Wilson,1999)のスピードを促進するという議論である。本年度は、この文化伝達を支える頻度依存傾向が、相手の集団所属性に依存して協力するかどうかを決定する内集団協力傾向に支えられて進化する可能性を進化シミュレーションにより理論的に検討した。進化シミュレーションの結果、個人間の淘汰圧に比べて集団間の淘汰圧が十分に高い状況では、内集団協力傾向と頻度依存傾向がセットで安定して進化する傾向が示された。
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