因果関係の推定を考える場合には、従属変数と群への割り当て変数、そしてそのどちらにも影響を関連のある共変量の3つの変数群が存在する。ここでこの3つの変数群の同時モデルを利用できれば、正しい統計推論を行うことができる。しかし、一般には多い場合で数十変数を同時に解析する必要が生じる。従属変数に関しては単変量で解析するとしても、割り当てに関連すると思われる共変量は非常に多くなり、人文社会科学分野では同時モデルを構成することは不可能である。一方、欠測状況にある(専門用語を使えばMissing at Randomという)仮定を置けば、従属変数と共変量の回帰モデルを仮定することで正しい推測が可能になるが、一般にはこの回帰モデルはモデルの誤設定に非常に鋭敏であり、二次項の入った回帰関数を誤って線形と仮定するといったことだけで推定値が大きく偏るっことが知られている。 これに対して、RosenbaumとRubinが開発した傾向スコア解析法は、回帰モデルの仮定を置かずに因果効果を推定できるため、近年欧米の医学や経済学中心に応用研究において非常に頻繁に利用されてきている。この方法はそもそも、テスト得点の等化のために開発された手法であり、教育心理学分野においても発達真理分野などで徐々に利用されつつある。 そこで、今年度は、すでに開発した多群の構造方程式モデリング及び、項目反応理論モデルにおいて、群によって共変量の分布が異なるという場合に、傾向スコアを用いた潜在変数上での因果効果推定法を改良し、「目的変数と共変量の回帰モデル」と「群への割り当てモデル」どちらもモデル指定を行い、どちらかが正しければ因果効果を推定することができる「二重に頑健な推定法を開発し、その成果は計量心理学でもっとも権威あるPsychometrika誌に掲載が決定されている。 また、因子得点の厳密な信頼区間などを計算するためには、MCMC(マルコフ・チェーン・モンテ・カルロ)法を用いたベイズ的な推論が必要であるため、ベイズ的な手法を用いた傾向スコア解析法を提案し、論文をComputational Statistics and Data Analysis誌に投稿し掲載が決定した。 また欧米の大規模教育調査データを利用して、知能発達の成長曲線モデルに提案した手法を応用し、有意義な結論が得られた。
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