研究概要 |
2つの実験によって,解決プロセスを言語化することが困難であり,また,解決にとって言語化が必須ではない課題,すなわち,潜在的なプロセスが関わる課題の遂行時に,言語的な振り返りを行うことが及ぼす影響を検討した。 実験1では,洞察問題のような高次の課題でも言語隠蔽効果が生じるかについて検討した。Tパズルを用いて,取り組みを一旦中断して,「どのようにして課題に取り組んだか」を説明する「記述的言語化条件」と,課題とは無関連な内容を説明する「無関連言語化条件」の比較を行った。指標としては,(1)制限時間内での解決率と(2)解決を阻害している不適切な制約の緩和度を用いた。その結果,解決率に関しては明確な差が見られなかったものの,記述的言語化条件では,解決を阻害している対象レベルの制約の緩和が抑制されていることが示された。このことから,洞察問題のような高次の課題に関しても,言語隠蔽効果が生じることが明らかとなった。 実験2では,言語化の効果を言語化の構えという観点から検討した。具体的には,言語化が妨害的に作用することが想定される潜在学習課題であっても,自らの解決プロセスの問題点に着目して言語化すれば促進効果が得られるという仮説についての検討を行った。砂糖工場課題を用い,取り組みを中断して言語的な振り返りを行う際に,「うまくいかなかった」と思う点に着目する「失敗焦点言語化条件」,「うまくいった」と思う点に着目する「成功焦点言語化条件」,課題とは無関連な内容について言語化する「無関連言語化条件」の3条件を設定し,遂行成績の比較を行った。その結果,他の2条件に比較して,失敗焦点言語化条件で遂行成績が高いことが示された。このことから,言語化であっても,自らの取り組みの中でうまくいかなかった点に着目した形で行うのであれば,潜在的なプロセスが主として関わる課題に関しても促進効果を生み出しうることが明らかとなった。
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