本年度の研究成果は次の通りである。 1. 複数テキストを利用した評価能力の分析 : 昨年度、複数の論拠が相互に対立する2つの議論文を読んで、各論拠について評価する際に、対立する論拠同士を関係づけながらそれを行うことができるか、biased assimilationパラダイムを応用して大学生を対象に実験を行った。本年度はそのデータを分析し、論拠の対立関係が明示的なものについては関係づけに基づく評価が可能であるが、関係がわかりにくくなると、それができなくなることを明らかにした。また、論拠の評価には事前態度の影響も見られた。 2. 複数テキスト読解に対する教育的支援 : 複数のテキストを読んでレポートを作成する課題(6回)を授業で行い、レポート内容の評価を基に問題点を分析し、教授介入することを繰り返す形成的実験研究を行った。特に複数テキストの処理という観点から重要な引用の技術(記載の技術と対話の技術)に関する問題(引用の有無、内容、位置づけ方など)に焦点を当て、分析と教授介入を繰り返したところ、記載と対話の両側面で顕著な改善が見られた。 3. 研究のまとめ : 本年度は当該研究課題の最終年度にあたるため、3年間の研究成果をまとめた。具体的には、複数テキスト読解力を、評価、関係づけ、統合の3つのコンポーネントからなる能力としてまとめることができた。これは、複数テキスト読解の教育的支援を行う際の重要な切り口になるものである。しかし一方で、3つのコンポーネントそれぞれに対する具体的な教育的支援の方法を開発するまでには至らなかった。今後の課題である。
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