以下の課題を年少および年中児を対象に実施した。この課題は、視線方向を無視(=簡単だが不適切な行動を抑制)し、反対方向を向く(=困難だが適切な行動を行う)ことが要求されるため、実行機能を含むと考えられる。 課題:モニタ中央に視線を含む顔が表示され、その後、顔の右か左に標的刺激が出現する。被験者は標的刺激の出現位置を判断するように求められる。なお、視線の示す方向と標的刺激の出現位置には関連はなく、そのことは被験者にも教示されている。 その結果、年中児では視線方向と標的刺激の出現位置が一致する時には、反応(時間)が促進され、不一致の時には妨害されることが示された(これは成人の反応と同じものである)。一方、年少児ではこうした視線の効果は見られなかった。そこで、視線への注意の固定と幅が年齢によって改善されるというモデルを作成し、コンピュータ・シコ.ミレーションを行ったところ、実験データとほぼ一致する結果が得られた。すなわち、年少児では刺激に対する注意が十分に発達していないために、見かけ上、視線の影響がないように見えると言えよう。実際の実験データでは他の実行機能課題との高い相関は見られないが、その理由は年少児の注意の未発達によるものかもしれない。 また、実行機能課題の改善のため、成人対象の予備研究をいくつか行った(先述の幼児対象の課題もその知見を元に作成)。そのうち、特筆すべき知見としてはRSVP課題に対して無関連言語音効果が見られたことであった。ただし、この結果についてはさらなる検討が必要である。 さらに、非言語性のLDを疑われる保育園年長児1名を対象に「プランを立てて行動する(これは実行機能の一側面である)」ことを目標とする介入を行った。計画どおりに行動することは外部の(視覚的・音声的)手がかり使用で相当改善されたが、子ども自身の内的な判断のみでは十分に改善されたとは言えなかった。
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