本研究の目的は、どのような側面が想起されやすいかに着目して想起内容を分析しつつ、自伝的記憶の神経心理学的研究を進めること、事例の日常生活に密着し、実生活上の認知活動との関連を明らかにし適切な援助方略を構築することである。本年度は、自伝的記憶の神経心理学的研究に重点を置いて研究を進めた。脳損傷事例を対象にLevineら(2002)が開発した自伝的インタビュー(Autobiographical Interview)を実施した。文献以外にマニュアルを入手する必要があったため著者に連絡をとって直接送付してもらい、利用の許可をとった上で訳出、実施した。この課題は五つの時代区分毎に、自由再生、一般的な手がかり、特定の手がかりと三つの条件によって構成されている。この課題を記憶障害を伴う脳損傷事例に実施したところ、自由再生、一般的な手がかり条件においてはほとんど想起されないにもかかわらず、特定の手がかり条件においては出来事の詳細さが改善されることが明らかとなった。詳細な分析は引き続き行っていくこととする。 また、次年度からの、実生活上の認知活動を分析対象としてどのような場面で記憶が用いられているかという視点で記憶困難を観察することを念頭に置き、マイケル・コール(カリフォルニア大学サンディエゴ校)の文化・文脈理論を取り上げ、特に学習障害児を対象とした実生活上の認知活動を直接分析した研究を複数訳出の上、レビューをおこなった(宮城教育大学特別支援教育総合研究センター紀要に掲載済)。同時に、コール教授の研究室を訪問し、自らの研究の方向性についてアドバイスを求めた。その結果、障害があり自らの内的な記憶、知識を用いて問題解決に至らなくとも、他者や周囲の環境からの情報を用いて解決する「環境をアレンジする力」に着目することの重要性を認識させられた。
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