本研究の目的は、脳損傷者や発達障害児・者を対象として、 (1) 想起内容を整理分析することにより記憶の障害の類型化をおこなうこと、 (2) 複数の対象事例の日常成果に密着し、実生活上における認知活動と記憶障害との関連性を明らかにし適切な援助方略を構築することの二点であった。本年度の目的は、前年度までに得られた知見をもとに適切な援助方略を構築するとともに、その有効性・妥当性について検証し、研究のとりまとめをおこなうことであった。 昨年度明らかにされた、記憶障害を伴う脳損傷事例において過去を思い出すことと未来をイメージすることの両方に障害が見られることについて、さらに分析を進めた上で文献等による裏付けをおこなった。加えて、そうした事例が外界にある手がかりを偶然用いて想起する様子についても分析し、外界の手がかりを適材適所で配置することが重要である可能性、そうした能力がかろうじて未来をイメージできないことを補償している可能性について議論し、International Congress of Psychology (2008年7月、ベルリン) にて発表をおこなった (発表の内容に基づいて学術雑誌に投稿すべく準備を進めているところである) 。同時に、発達障害児、とりわけ複数の高機能自閉症児及びアスペルガー障害児の過去の記憶の想起に着目したところ、こうした子どもたちの想起内容に偏りが見られ、自己に関する部分が欠落する可能性があるように思われた。この点については、実践を通じた予備的な観察に止まってしまったため、今後さらに本格的に検討を進める必要があると考えられた。
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