本研究の目的は、乳幼児の言語と情動の発達を促進する効果的な歌唱音声について、その音響的・言語学的特徴と、発達を促すメカニズムを解明することである。今年度は特に、養育者からの歌や音楽といった働きかけに対する乳児の反応に重点をおいて研究を行った。 1.歌唱音声聴取時の乳幼児の反応 母親が乳児に歌いかけた場合と通常歌った場合の声の高さの変化について、乳児がその変化を認知しているのか、またその変化はどのように乳児の状態に影響を与えるかを調べた。乳児の反応は、昨年度開始した選好振り向き法による実験と心拍測定装置を用いた生理的反応データにより測定した。音楽の調性の弁別は3〜5ケ月齢で発達しているが、母親の歌いかけの高さ変化の認知は9ケ月齢頃から顕著になってくることが明らかになった。低月齢を対象とした心拍測定データからは、日常的に聴いている音楽に対しての反応が、母親にあやされる時の反応に類似する指標が示唆され、情動発達と音楽の関わりを調べる上で有効な指標になる可能性がみいだされた。 2.歌唱音声が乳幼児の言語発達にもたらす効果 歌唱聴取と言語発達の関わりについて、歌詞という言語情報を伴う音楽を聴取することにより、乳幼児がその言語情報をどの程度学習しているのかを2・3歳児を対象に検討した。幼児に各家庭で英語の歌を聴取させ、その前後での英単語反復能力と歌詞再生能力を調べた結果、聴取前よりも聴取後に2つの能力が高いことが示され、歌聴取が音声反復・再生能力を促進する効果が示唆された。
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