本研究の目的は、乳幼児の言語と情動の発達を促進する効果的な歌唱音声について、その音響的・言語学的特徴と、発達を促すメカニズムを解明することであった。今年度は特に、発達の情動側面として養育者の歌唱と朗読音声に対する低月齢乳児の反応、言語側面として幼児の非母語学習おける歌聴取の役割に重点をおいて研究を行った。 1. 歌唱・朗読音声聴取時の低月齢児の心拍反応 乳児の泣きには至らない緩やかな緊張状態とその弛緩という変化に対し、心拍変化が有効な指標となりうることを確認するため、自宅と実験室において母親の在・不在、働きかけの有無という条件下で3〜6ヶ月児の心拍を測定した。これにより、自宅に比較して緊張が強いと推測される実験室下において、母親の不在→在、働きかけ無→有の変化に応じて、乳児の心拍変化が有意にみられた。これに基づき、次の実験では、実験室において母親不在の状況で、母親の歌唱または朗読音声のみを呈示し、乳児の心拍反応を調べたところ、歌唱条件では乳児の心拍が低下、朗読条件では上昇するという傾向が見出された。これは、歌唱音声が朗読音声に比べ乳児の情動を安定させる効果が高いことを、特に低月齢児において確認できた点において意義がある。 2. 歌唱音声が幼児の言語学習にもたらす効果 幼児の非母語学習における歌聴取の効果を検討するため、2・3歳児に各家庭で英語の歌を聴取させ、その前後での英単語反復能力を比較した。この結果、幼児は歌に含まれた単語、含まれない単語ともに歌聴取後の反復成績に向上がみられ、一歌聴取が非母語学習、特に発音および音韻系列の短期記憶に関して効果を持つことが示唆された。
|