研究概要 |
2009年度に実施したのは、以下の3つである。(1)大学生を対象とした質問紙調査の分析:虫に対する現代大学生の認識を探るために、知っている虫の名前を5分間で記述するという自由想起法による調査を行った(日本教育心理学会第51回総会で発表)。その結果、カブトムシやテントウムシ、クワガタなどの甲虫目だけで33%を占め、現代大学生の昆虫概念の中核は大型甲虫であることがわかる。興味深いのは、「昆虫以外」という項目であり、クモやムカデ、ダンゴムシ、時にはトカゲやカエルなどの名前があがっていた。日本語の「虫」は、昆虫のみならず「地を這うもの」という意味で、人間、鳥獣、魚貝以外の動物一般を指す場合がある。本研究の結果も現代大学生が幅広い概念で虫イメージを形成していることを示している。幼児を対象にとした同様の調査(藤崎,2007)と比較すると、大学生はより詳しく種名を記入する傾向はあるが、彼らが持つ虫概念の中核にある虫への認識は幼児期にほぼ出揃っているといえるだろう。(2)子どもたちの虫に対する言葉かけの分析:幼稚園で行われている虫遊びの実態を観察し、その中で子どもたちがどのように虫に対して言葉をかけているのかを分析した。さらに、そのデータをウサギやロボットなどに対する子どもたちの言葉かけと比較検討した結果、虫という存在がもっ特異性が浮き上がってきた。その結果をもとに、人間とは全く異なる論理で生きている虫の視点を通して、見慣れた世界を新鮮な驚きでもって見つめることができることの意味を議論した(科学基礎論学会総会、日本心理学会74回大会で発表)。(3)理論的まとめ:虫をめぐる子どもたちの諸活動の分析や質問紙調査の結果をまとめて、虫という存在が人間の育ちにもたらす意味を考察した。特に、「生きている」「死んでいる」ということを中心とした命のまなびについて議論を行った(公開講座フェスタにて発表)。
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