本研究では、読み習得(reading development)の必要条件の一つとされている音韻意識(phonological awareness)の生成と発達に関する問題を扱った。具体的には、従来の研究のように領域一般的な能力として音韻意識を捉えるのではなく、個々の子どもの経験に応じた音韻意識の形成パターンを描き出すことを目指した。 はじめに、第一実験の課題作成へ向けて、現状では十分にレビューされていない過去10年ほどの音韻意識と読み習得の関係に関する先行研究について整理した。この作業から、領域一般的な能力としての音韻意識を捉えようとする研究も、それへの批判として立ち上がった、日常的な活動(ことば遊び等)から音韻意識ならびに読み習得がいかに形成・展開されるかを捉えようとする研究も、ともに音韻意識や読み習得に関係する特定の活動や介入をどの子どもにとっても同じ意味をもつと想定している点が共通することが明らかになった。この知見および並行して実施していた保育所での保育観察の結果を基礎に、子どもの語に対する親近性と音韻意識との関連という視点から課題を作成し、北海道大学大学院教育学研究科附属子ども発達臨床センターに通う幼児に協力を依頼し第一実験を実施した。その結果、語に対する親近性と音韻意識との明確な関連については更なる検討が必要とされるものの、音韻意識課題において、用いられた課題語が当該の子どもの語彙知識においてどのような位置を占めるかという観点から分析する必要があることが示唆された。 この結果をふまえ、次年度は第一実験の結果を報告するとともに、それをふまえて愛知県内および札幌市内の保育園等に協力を依頼し、第二実験を実施する予定である。 なお、研究方法論の理論的整理、研究協力圏の確保ならびに調査実施に関わる諸手続、データ整理ならびに分析・討論等、本研究の遂行全般にあたり、研究協力者として伊藤崇氏(北海道大学大学院教育学研究院・助手)の助力を得た。
|