研究概要 |
本年度は重症心身障害者(重障者)を対象に実験的働きかけ場面を設定し, 同場面における心理的変化を唾液中コルチゾール, 唾液中アミラーゼ活性, 心拍変動ならびに行動観察を通じて検討した。 昨年度の研究で, すでに日常生活場面におけるアミラーゼ活性の検討(不連続な2日間における起床時から就床時までの連続8〜10時間記録)を行っており, アミラーゼ活性の日内変動が個人内では比較的安定していることを確認している。この結果をうけ, 今回対象とした事例のアミラーゼ活性の変動が安定した時間帯において, 対象と普段の生活から親密な関係にある療育者(Ns. : 主として担当看護師)と, 今回の実験的場面で対象と初めて出会う実験者(Str. : 主として大学院生)が同様の働きかけを(名前呼びや絵本の音読など)行った。そして, 同時に採取した唾液からコルチゾール量やアミラーゼ活性を求めた。また, 上の実験的場面をビデオ記録し, 後日, 単位時間当たりの瞬目量などを求めた。その結果, 障害の程度の差によって多少の違いはあるものの, 対象者の反応はNs. とStr. の働きかけに対して異なっており, 少なくとも両者(の働きかけ)を区別して認識していることが示唆された。また, 特にStr.による各種働きかけに対しては, 今回記録した指標の多くで健常成人が精神的ストレスを感じたときに生じる反応を呈していたことから, 本研究で採用した指標のうち, とりわけ採取から分析結果が明らかになるまでに要する時間が少ない唾液中物質に関しては, 重障者の心理的応答性を即時に評価する上できわめて有効であることが指摘できる。
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