本年度は、質問紙調査を中心に研究を行った。バウム画を描出する課題を集団で施行し、その時の体験をもとにデータベース化し、分析を行った。また、幹先端処理について改めて問い直すため、あらかじめ幹となりうる線を描出済みの用紙に樹木画を完成させるスタイルの質問紙も施行した。これらのことからバウム画を描く際の困難さにまつわる資料は概ね収集されたものだと考える。今後更に精査し、本年度の面接調査に活用していきたい。 さらに、コッホの生まれた地であるスイスのルツェルンを訪ね、バウムテストが発想される土地の背景を探った。バウムテストの「実のなる木」という限定的教示への検討は諸家によりなされており、ボーランダー(1977/1999)やアヴェ=ラルマン(1996/2002)は果樹の限定は外している。スイスに赴き感じたことは、彼の地では果樹が非常に身近に存在している、と云うことであった。そうした文化的背景の差異は如何様に働くであろうか。もちろん、青木(1980)の指摘するように「「実のなる木」であって「実のなっている木」ではない」のであり、その描きにくさが独特の課題性をもって描き手に迫っているという青木の意見も筆者にとっては納得のいくものである。筆者はその課題性こそを今回のテーマとしており、単純に教示の変更をもって文化差を考慮したとなす態度は取らないものであるが、やはり身近に存在しない「果樹」を描画素材として選ぶのは適当であるか否かは今後も考え続けねばならないであろう。 今後は今回得られた課題を元に、さらに樹木画そのものについて探求していきたいと考えている。人にとって樹木を描くとはいかなる意味を持つのか。そしてそれを意味ある課題として考える際にはどのような心理的メカニズムが働くのか。樹木画に限定されず、広く人間学的視野をもってこの課題に取り組んでいきたい。
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