本年度は、過去の研究データの総括を中心に行った。具体的には、昨年度末に行った質問紙調査に関する分析が中心となった。昨年度は、「描かれたバウム画に対して、描画でどのようにメッセージを返すか」を調べるべく、質問紙調査を行ったが、そのデータの整理並びに分析、検討を中心とした。調査で描かれたメッセージとしての描画は非常に興味深いものであり、バウムテストが持つ象徴性と重なりつつも、また違った形での投影法としての可能性を予感させるものであった。 このデータを描画に精通した臨床家とともに検討を行い、KJ法を援用して描画のグルーピングを行い、この質問紙で行われた方法の結果をより整理させた。その結果は、箱庭学会で発表を行い、「実のなる木を描いてください」という教示ではじめるバウム技法に対し、「描かれたバウム画にメッセージを絵で描いてください」と教示するこの方法を「バウム返答法」と名付け、この技法は関係性の側面がよく表れるのではないか、という仮説と、臨床を学ぶ初学者自身のかかわりをふり返るいい機会として活用できるのではないか、という今後の援用可能性について示唆した。 描画を描く際の内的体験は、きわめて茫漠としており、捉えにくいものである。本研究はそれを「ゆらぎ」というキーワードで捉えようとしたが、言語的なアプローチでは依然困難であることが判明した。漠然としたものを、その性質を生かしつつ表面化するための方法論として、言語的表現のワンクッションとして描画での返答を試みる今回のアプローチは、未だ洗練しきれぬところは残るものの、イメージを生かしつつ明細化が可能であると云う点で、きわめて意義深いものであると考える。
|