研究概要 |
本研究は、視覚と触覚に同時に提示される運動情報の知覚に際して視覚と触覚それぞれの情報がいかにして統合されるのか、視覚・触覚間の情報に不整合やずれが生じた場合に運動情報の知覚がいかなる影響を受けるのかといった点について検討することを目的としている。本年度では、本研究で用いる刺激事態において視覚・触覚間の感覚統合が生じるか否かについて、redundancy gainパラダイム(Miller,1982)を用いて検証した。実験では、実験参加者は視覚と触覚に提示される運動刺激の運動方向を知覚してなるべく速く反応するように求められた。刺激はいずれか一方のモダリティに提示される場合と、2つのモダリティに同時に提示される場合があり、後者の場合、2つのモダリティには同一の課題関連属性(本研究においては運動方向)を持つ刺激が提示されるため、実験参加者はいずれのモダリティの刺激に基づいて反応を行ってもよいことになる。この場合の反応時間がいずれか一方のモダリティに提示される場合のそれに比べて短くなる現象はredundancy gain(以下、RG)と呼ばれている。実験の結果、本研究で用いた刺激事態においてもRGが観察された。RGを説明する作業仮説として、従来、感覚間の情報統合を仮定する同時活性化モデルとそれを仮定しない独立競争モデルが提案されている。本実験の結果は同時活性化モデルと適合するものであり、本研究で用いた刺激事態において視覚・触覚間の感覚情報の統合が生じていたことが示唆された。さらに、視覚刺激の輝度を数種類に設定した追加実験を行ったところ、視覚刺激と触覚刺激の単独提示事態における反応時間がほぼ等しくなる輝度で視覚刺激を提示した場合に、最大のRGが生起することが見出された。また、視覚刺激と触覚刺激の提示位置を操作した実験から、それらが空間的に異なる位置に提示される場合には感覚情報統合が生じないことが明らかになった。
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