研究概要 |
人間も含めた動物の知覚がどのような適応を遂げてきたのかを実証的に明らかにするためには,その知覚過程に関する同一の課題を複数の種でテストし,種間の差異や種に共通する普遍性についての検討が必須である。本研究では,オブジェクトベースの注意に関する注意移動課題を利用し,異なった生態をもつハトとキュウカンチョウにおける知覚的体制化を比較することによって,知覚様式の多様性を詳細に検討し,知覚的体制化がどのような淘汰圧を受けながら進化してきたかを考察する。 平成18年度は,ハトの行動実験装置一式を用意し,ハトを被験体とする実験をおこなった。各試行では,まず2つの長方形が横あるいは縦に並んで呈示された。画面中央の円に反応すると,いずれかの長方形の端に手がかりが呈示された。これに反応すると,刺激間間隔をはさんで,ターゲットが,1)手がかりと同じ位置,2)同じ長方形内の別の端(Within条件),3)もう一方の長方形の同側の端(Between条件)のいずれかの位置に呈示された。被験体がこのターゲットに反応すれば,報酬が与えられた。ヒトと同様のオブジェクトベースの注意が起きるなら,Between条件よりもWithin条件で反応時間が短くなることが予想されたが,ハトは,オブジェクトよりも画面上の位置に対して固執する傾向があった。今後さらに刺激間間隔や刺激属性を変化させて,ハトにおけるオブジェクトベースの注意過程を探っていく必要性が示唆された。 また,19年度以降にキュウカンチョウを用いた比較実験をおこなう準備のため,キュウカンチョウの飼育を開始した。ハトとは異なり,飼育者を弁別して行動を変化させるなど,ハトとは違う慎重な性質を有することが判明した。キュウカンチョウの特性をふまえた上で,今後ハトと同パラダイムの課題を与える準備を整えることができた。
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