研究概要 |
人間も含めた動物の知覚がどのような適応を遂げてきたのかを実証的に明らかにするためには,その知覚過程に関する同一の課題を複数の種でテストし,種間の差異や種に共通する普遍性についての検討が必須である。本研究では,オブジェクトベースの注意に関する注意移動課題を利用し,異なった生態をもつハトとキュウカンチョウにおける知覚的体制化を比較することによって,知覚様式の多様性を詳細に検討し,知覚的体制化がどのような淘汰圧を受けながら進化してきたかを考察する。 本研究における注意移動課題では,各試行は2つの長方形が横あるいは縦に並んで呈示されることで開始した。画面中央の円に反応すると,いずれかの長方形の端に手がかりが呈示された。これに反応すると,刺激間間隔をはさんで,ターゲットが,1)手がかりと同じ位置,2)同じ長方形内の別の端(Within条件),3)もう一方の長方形の同側の端(Between条件)のいずれかの位置に呈示された。被験体がこのターゲットに反応すれば,報酬が与えられた。ヒトと同様のオブジェクトベースの注意が起きるなら,Between条件よりもWithin条件で反応時間が短くなることが予想された。18年度の研究で,ハトは,オブジェクトよりも画面上の位置に対して固執する傾向が見られた。そこで,19年度は,手がかりの有効性を増したときに物体の影響を受けるかどうか調べたところ,被験体によっては物体が手がかりとして注意捕捉の機能を果たすことがわかった。キュウカンチョウは,ハトよりも物体の小さな差異に対して感受性が高いことがわかったが,ハトと同じ手続きでは,有意な結果が得られなかった。得られた種間比較から考察された比較研究の意義について論文にまとめた。さらに,同種課題でチンパンジーから得られた結果と比較し,知覚的体制化の進化について整理し,学会発表をおこなった。
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