研究概要 |
動物の知覚がどのような適応を遂げてきたのかを明らかにするためには, その知覚過程に関する同一の課題を複数の種でテストし, 種間の差異や普遍性についての検討が必須である。本研究では, オブジェクトベースの注意に関する注意移動課題を利用し, 知覚様式の多様性を詳細に検討した。 本研究における注意移動課題では, まず2つの長方形が横あるいは縦に並んで出現した。画面中央の円に反応すると, いずれかの長方形の端に手がかりが呈示された。刺激間間隔をはさんで, ターゲットが, 1) 手がかりと同じ位置, 2) 同じ長方形内の別の端(Within条件), 3) もう一方の長方形の同側の端(Between条件)のいずれかの位置に呈示され, 被験体がこのターゲットに反応すれば, 報酬が与えられた。これまでの研究により, 鳥類, 特にハトでは, Between条件よりもWithin条件で反応時間が短くなるということはなく, 画面上のオブジェクトによってその注意が制御されないことを示してきたが, 1)このようなハトの注意機能の性質がヒトやチンパンジーとどのように異なっているか, 2) ハトの視覚的体制化にどのように関わっているか調べた。1) に関しては, 昨年度から引き続きチンパンジーとヒトを被験体(被験者)として注意課題を用いて調べ, 視覚的体制化によって構成された物体に対しても, オブジェクトベースの注意が働くことがわかった。2) に関して, ハトでは, オブジェクトベースの注意が働かないが, これは, 視覚的体制化機能の段階でヒトやチンパンジーと大きく違っているためか検討するため, 代表的な視覚的体制化機能である類同の要因によるゲシュタルトを検討したところ, ヒトと共通するゲシュタルト知覚が示されたことから, ハトでオブジェクトベースの注意が働かなかったのは, 体制化の段階ではなく, 注意の段階での種差であることが示唆された。
|