研究概要 |
実際の三次元空間内における視覚的注意に関して, 特に遠近方向での視覚的注意の切り替えにおける時間的特性を観察者静態と動態の両事態で検討した. 先行手がかり法を用いた結果, 観察者静態では注意切り替えの方向による違いはみられなかったが, 観察者動態では遠くから近くの方がその逆よりも反応が早く, さらに手がかり提示時間が長い方がその異方性は顕著にみられた. このことは, 観察者静態と動態で機能する注意の時間的特性に違いがある可能性を示している. さらに, この知見を実際場面に応用して検討することを目指し, 自動車運転中の注意の遠近方向の移動を模擬した環境で, 手がかり刺激と標的刺激の色の違いが反応にどの様な影響を及ぼすのかについて検討を行った. また, その際に, 周辺視野での明るさが課題遂行にどの様な影響を及ぼすのかを検討した. これらの検討によって, 観察者に対する知覚的・認知的な課題負荷がパフォーマンスにどの様な影響を及ぼすのかを調べられた. また, 両眼視差を用いた仮想空間内における視覚的注意について, 実空間へ虚像を用いた情報を提示する手法であるヘッドアップディスプレイの手法の実現に向けた基礎的検討として, 運動事態を想定した周辺視野での光学的流動刺激提示の際に遠い空間と近い空間で生起する事象に対する反応の違いを検討した. これらの実空間と仮想空間の2種類の三次元空間内において, 視覚的注意特性を検討したものはこれまでになく, 基礎的知見としても実際的知見としても有用な知見を蓄積したと考えられる. また, 特に, 交通場面での高度情報化によるドライバに対する負担について, 例えばカーナビゲーションやヘッドアップディスプレイなどの情報機器の設置と使用の安全性に関する貢献が期待できる.
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