研究概要 |
先行研究によって抽出された「居心地」、「活動性」および「形式」の3因子に基づき空間を設営した。具体的には、「1.ゆったりとしたくつろぎのある空間」と「2.機能的で事務作業を目的とした空間」を実際に準備した。本実験に先立って行った予備調査からは、音楽による心理的影響を受けるのには6分程度が適切であることがわかった。そこで、実験群の被験者にその空間で6分間過ごさせ、自由な状態で音楽を聴取させた。音楽の種類として操作する主要な変数は、音楽から受ける"癒され感"であった。この感覚には、「音楽の拍節性」、「テンポ」および「音圧」が関係していることが分かっており、それらの基準に従って音楽を準備した。POMS(30項目)とGACL(20項目)を合わせたものから、両者において重複する項目を除いた計46項について、実験群と統制群の評価を比較した。 実験の結果、「落ち着かない」や「活動的な」、「ゆったりした」、「くつろいだ」などといった項目について両者の間に有意差が確認された。これらの結果から、1)BGMは、聴取空間とは独立して聞き手に影響を及ぼす側面と、2)聴取空間と相互に作用しながら聞き手に影響を及ぼす側面の、2面があると考えられる。1)については、「落ち着かない」気持ちをやわらげ,「活動的な」,「そわそわした」といった高ぶる気持ちを静める傾向があった。また、2)については、音楽と聴取空間が互いに作用し合って「ゆったりした」気分が大きく,「どきどきした」気持ちが静められる,といった沈静的な効果を作り出しており、互いに相乗効果を生み出す可能性があることが明らかになった。
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