本研究は、時間・空間情報に関する人間の学習事態において、回顧的推論、特に逆行阻止の現象が生じうるか、またどういったメカニズムでこうした現象が生じるのかに関して考察を加えることを目的としている。 本年度は、空間学習事態においてすでに動物実験において確認されている刺激間競合現象の確認を行った。そのために、コンピュータ画面上に擬似的な3次元立体空間を呈示するアプリケーションを作成した。手続きとしては、コンピュータ画面上にランドマークとなる視覚刺激(A)を呈示し、ゴールとなる位置を探し出す課題を用いた。この際に、被験者はランドマークAの位置とゴールの位置との相対的空間関係を学習する。さらに、既に呈示しているランドマークAに加えて新たなランドマークBを呈示し、同様にゴールの位置を学習させた。この際に、A、B、ゴールの相対的位置関係は一定であった。この手続きによって、被験者はゴールを探し出すための空間手がかりとしてA・Bの二つのランドマークを得るが、古くから知られる阻止現象が確認されるならば、ランドマークAが十分にゴールの位置を信号するためにランドマークBとゴールとの空間関係の学習は"阻止"されると考えられる。予備的実験の結果、被験者は複数ランドマーク間での競合を示した。こうした結果は、これまでに報告されてきた古典的条件づけ事態における刺激間競合の結果と一致し、また動物において示されてきた空間学習事態における刺激間競合の結果とも一致する。 今後は、こうした結果を踏まえてタッチスクリーンを用いた2次元事態への応用や本研究全体の目的である回顧的推論課題への発展、および時間学習への応用を行っていく。
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