研究概要 |
本年度は,多重のダイナミクスをもつ物体の内部モデルに関して,ベイズ推定とモデル選択の概念にもとついた計算理論を構築した.この計算理論では,物体の運動に関する視覚情報を予測する内部モデルが脳内で表現されていると考え,その予測と実際の視覚情報を用いて外界の物体の状態についてベイズ推定を行なう.さらに,そのような内部モデルを複数保持し,与えられた文脈にもとついて適切な内部モデルを選択するモデル選択の概念を取り込むことで,外界の状態推定における文脈依存性を実現する. 本年度ではさらに,この計算理論の有効性を確認するため,運動からの剛体および非剛体構造復元に関する心理物理実験を行なった.構築した計算理論の枠組みでは,剛体および非剛体運動による画像生成の内部モデルからの予測と実際に与えられた画像運動との適合度にもとついて適切な内部モデルを選択し,選ばれた内部モデルに対応した外界の構造を復元することになる.この枠組みを支持する知見として,剛体運動から生成される画像運動であつても,剛体運動の内部モデルからの予測に適合しない場合,非剛体運動として知覚されることを示す結果が得られた.さらに,これらの内部モデルを確率分布として定式化し,ベイズ決定による知覚判断モデルに取り入れてシミュレーションを行ない,心理物理実験で見いだされたモデル選択の過程が,構築した計算理論と適合するものであることを確認した.
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