研究課題
幼児期の音素獲得の順序([p]/[b] -> [t]/[d] -> [k]/[g])を普遍的制約であると考えられている。一方、各音素の相対的出現頻度は言語によって大きく異なり、この種の多寡が言語処理過程に及ぼす影響も少なくないことが知られている。本研究では、音素獲得で指摘される図式が脳内の計算過程の複雑さに由来するものなのかについて、音素レベルの出現頻度等を考慮して検討している。本年度(初年度)は、NTTデータ・ベース「日本語の語彙特性」を分析し、出現頻度が発話潜時に影響するか否かの予備的検討を行った。具体的には、データ・ベースを分析・参照して意味がないように作成された刺激語の音素配列の統計的性質が、発話潜時、及び発話長に影響するか否かを検討した。操作された統計的性質は、実在する単語と同じパターンのものが刺激語にどれくらい含まれているか、及び、その単語の出現頻度がどれくらいか、といった多寡情報であり、高い単語群、及び低い単語群がそれぞれ20語作成された。実施した発話課題には、単語を提示してすぐに発話させる即時条件と、すぐには発話させず次の合図をまって発話させる遅延条件があった。その結果、音素配列の統計的性質が発話潜時に強く影響することはなかったが、発話長に影響する可能性が示唆された。発話潜時は単語の音韻(phonology)から音声(phonetic)情報に関わる処理を反映し、発話長は音声処理から調音(articulation)にかけての情報処理を反映していると仮定すれば、本研究で操作した統計的性質の効果は、音声・調音に由来すると考えることができる。しかし、発話潜時に有意差がなかったのは、書き言葉を中心にしたデータ・ベースの特性である可能性も否定できないので、今後、話し言葉をベースにしたコーパスを参照することで作成された刺激セットで検討していく必要もある。
すべて 2006
すべて 雑誌論文 (2件)
Journal of Experimental Psychology : Learning, Memory, and Cognition 32・5
ページ: 1102-1119
曰本公衆衛生雑誌 53・9
ページ: 702-714