研究概要 |
近世日本の寺院や僧侶に関する教育文化史的研究を試みるため,知を伝達するメディアとしての寺院や僧侶のありかたに着目し,資料調査および分析を実施した。 主に広島県在方寺院や富山県町方寺院で資料調査を行った。一次資料を確認するとともに,未発表の資料も発掘し,貴重な成果を得た。 調査した資料をもとに,つぎの内容の考察を進めた。 1.村や町に住し,庶民が接する檀那寺の僧侶は,かつて江戸や京都などの文化中心地で深く学問を学んだ経験をもつ。すなわち,「在村知識人」という性格を有する。このことが庶民の人間形成に与える意味を明確化する作業の一環として,僧侶の修学経験や上京経験の様相を検討した。彼らが専門学の仏教学以外にも,漢学,算学,暦学などを貧欲に学びとり,また和歌や書画を愉しむことを通じ,在京文人との活発な交わりのあったことを確認した。 2.僧侶が農民子弟に対して行った学習活動について,史蹟研究の成果もふまえて分析した。彼らが手習師匠をつとめ,農民子弟に手習や学問を教えるとともに,村の僧侶や村出身の僧侶を媒介して江戸に学ぶ機会をつかむ農民子弟の存在を明らかにし,その意味を考察した。研究成果の一部は「近世僧侶の農民子弟の学習活動へのかかわり-安芸国広島藩領賀茂郡黒瀬組の事例-」(『鳴門教育大学研究紀要』22,2007)としてまとめ,公表した。
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