本研究では市民参加型舞台芸術を分析するにあたって、行政(地方自治体)と市民との関係、およびプロフェッショナルとアマチュアとの関係という2つの問題軸を設定した。前者においては「市民参加」をめぐる政治的背景、とりわけ市民参加型舞台芸術の萌芽期である1970年前後の状況に焦点を絞って分析した。ショナルレベルの階級闘争に運動を集中していた革新政党は、1960年代を通して、戦後大衆運動を支えていたその指導力を失った。その間隙を縫って誕生した市民運動および「市民参加」概念においては、政党・労働組合に系列化されることがないがゆえに従来の大衆運動にはみられなかった広がりをもつ人々の結合を生み出しつつ、自治体政策決定および執行過程への市民の直接参加が進められた。これらの動向が市民と行政とが協働で舞台芸術を行うことの素地となったと考えられる。 後者のプロとアマチュアとの関係に関しては、アマチュアをめぐる言説に賞賛と批判の2種類が恒常的に存在することを確認した。賞賛者においては開放性やネットワークづくりなどの「市民=アマチュア」が参加することの意義を重視するが、批判者はその質の保障に関する問題点を指摘する。そのようなアマチュア活動のディレン々を、各種雑誌めバックナンバーに掲載されたさまざまな言説の分析により整理した。 なお、これらを明らかにするため、事例研究として30年以上の活動実績を持つ遠野市・藤沢市にヒアリングを行った。また、海外比較調査として米国20世紀初頭の社会教育活動であるショトーカについても調査したが、十分な位置づけを行引こは至っていない。
|