研究概要 |
本年度は理論的検討と本研究課題のまとめを行った。本研究の知見は以下の通りである。 1. 教育委員会制度改革の政治過程を検討し, 改革において従来言われているほど文部省の影響力が強くなかったことを指摘した。むしろ同等またはそれ以上に, 自治省・地方六団体など地方自治下位政府の影響力が強く, また1950年代から現在まで一貫してそれが続いてきたことを明らかにした。 2. 中央省庁から都道府県教育長への出向人事を実証的に分析し, 任命承認制の存在とは逆に, 文部省から教育長への出向が他の行政領域における中央省庁から県部長のそれよりも少ないことを明らかにした。さらに教育長人事でも自治省や首長の影響力が大きいことを計量分析と事例分析から示した。 3. 自治体首長への質問紙調査の分析から, 教委制度改革の政策選好(存続か廃止か)が, 教委制度への評価だけでなく, 首長の政治的安定性や首長-議会関係といった政治的要因によって強く規定されていることを発見した。この結果から, 教委制度廃止論の背景として, 地方政治の変容が重要であった可能性がある。 以上から, 戦後日本の教育行政において文部省-県教委-市町村教委-学校という通説的な縦割り集権モデルとは異なる実態があったと結論できる。教委制度の存在が教育行政の縦割り性・集権性を強めてきたという伝統的な理解を修正する必要があることを示唆した。
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