18年度は、(1)発達概念の訳出過程を幕末から明治初期におけるさまざまな辞書類の比較から明らかにする作業と、(2)発達概念の近代性をとらえる枠組みの検討を身体論などに学びながら行った。 (1)に関しては、静岡県立中央図書館葵文庫所蔵の辞書(約30点)を検討し、development(英語)ontwikkeling(蘭語)developpement(仏語)などのヨーロッパ語と「発達」がいつの時点で対応するのかを調査した。その結果、対応関係が成立するのは、1886年『英和双解字典』であることが明らかになった。developmentの翻訳作業が始まってから半世紀を経過しての対訳関係の成立という事実は、この語の訳出が容易ではなかったことを窺わせるものである。 (2)については、日本教育史研究第25回サマーセミナー「教育史における身体と性」(2006年7月31日)で発表したほか、「日本教育史往来」No.162(「成長論の展開における身体と性」2006年6月)及びNo.164(「教育史において身体を問うこと」2006年10月)において次のような問題提起を行った。それは、近世的な身体論としての「発生」論から、どのようにして近代的な「発達」論へと展開したのか、そこにどのようなせめぎあいがあったのかを明らかにするという課題である。仮説として、江戸後期から次第に人間の身体への科学的なまなざしが強まる中で、発生論は身体の神秘性を増大させるのに対して、発達論では逆に身体への人為的介入を促す方向性をもったのではないかと考えている。近年の発達論批判の中で、後者についてはすでに心理学や教育学の中で指摘されているが、前者の発生論が近代化の中でどのような経緯を辿ったのかについては未だ検討されていない問題である。 19年度は、上記の二つの課題を追求し、その結果を静岡学問所という場に即したモノグラフとして発表する予定である。
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