本年度は、まず、オーストリアにおけるPISA以降の学力向上政策の中でも、とりわけ教育実践に焦点をあて研究を行った。オーストリアでは、PISAでの芳しくない結果を受け、急速に教育改革が進められている。その中のひとつが学力向上政策としての教育スタンダードおよび学力テストの試行・導入である。ドイツ語・算数(数学)などに設定されたスタンダードは、授業モデルの中に提示され、教師はそのモデルに沿って授業をすれば、スタンダードはクリアされていくというシステムになっている。授業モデルには教材の提示に加え、PISA形式の問題や語彙の確認(ドイツ語)など基礎・基本的な問題も含まれている。 本研究では、このような学力向上政策に基づいた教育実践の実験に対する批判も取り上げ考察した。近年共通して見られるドイツ語圏の教育政策にも同様の批判が該当するだろう。中でも、ドイツ語圏の学校教育には無縁のものであったテストが取り入れられたことによる現場の困惑は、日本においては想像しがたい現象であるだろう。 しかしながら、この現場の混乱は、学校教育にテストが氾濫している日本においてもテストを見直す、評価を見直すために有効な示唆となるだろう。 次に、戦後オーストリアの教育実践が、戦間期の労作教育の影響を受けていることに着目する研究を行った。戦後のオーストリアでは戦間期の労作教育という概念が拡大して使用され、「Bildungsschule」が戦後教育実践の改革のキーワードであったことを指摘した。これは上記の学力向上政策を考察した研究に関連し、テスト文化とは無縁の教育が、1920年代の新教育の時代から継続していたことを示している。
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