研究概要 |
本年度の研究実施計画に基づき,以下の研究を行った. (1)については,わが国のデータにT.A.を適用した実証分析を行い,以下の知見を得た(論文2).1)諸外国において認められた階層効果逓減現象は,わが国の場合,戦前の一定期間においてのみ認められる.2)中等教育機会の平等化と高等教育機会の不平等化の同時進行は,戦後の高学歴化期ではなく戦前における中等教育のマス化に関わって生じた.3)中等教育であれ高等教育であれ格差の拡大は上位層による希少財の先取りと関わって生じた可能性がある.4)MMI仮説の主張する上位層の飽和による平等化はわが国の場合には必ずしも認められるわけではない. (2)については,中等教育段階におけるトラッキングを考慮した修正版のT.A.モデル(多項トランジッション・モデル)による分析を進め以下の知見を得た(論文1).1)トラッキング論の枠組では出身階層の間接効果にのみ照射することになるが,そうしたアプローチからは抜け落ちてしまう直接的な効果が一貫して認められる.2)「困難な経路ほど出身の効果が強まる」とする迂回-増幅仮説に適合的な状況は,1960年代に高校進学を経験した世代においてのみ認められる.なお,これらの成果をより発展させた投稿論文を執筆中である. (3)(4)については,当初の計画通り,レビューと先行研究の検討を通じた理論やモデルの説明可能性に関する検討を行い,以下の2つの研究を進めた.1)「相対リスク回避(RRA)的説明の可能性:階層本位論と選抜制度本位論」というタイトルにて研究報告を行い,合理的選択理論系モデルが持つ可能性と限界を検討した.2)論文1において,わが国の教育達成過程における不平等の生成メカニズムを説明するうえで,理論が目指すべき方向性について検討した.
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