わが国では高等教育のユニバーサル・アクセス時代を迎え、従来型の「伝統的学生」を前提にした高等教育システムの制度設計と大学等の現状との間の乖離が徐々に明らかになってきた。大学における教授・学習行動を秩序立ててきた「学位制度」もまた、多様な就学目的、学習意欲を有する「新しい学生層」の参入により、これまで暗黙裡に果たしてきた機能の融解・変容が懸念され、「学位の質保証」が政策的課題となっている。本研究では、「新しい学生層」の事例として、大学への転・編入学生、短期大学専攻科等での学修を経て大学評価・学位授与機構で学士の学位を取得する学生に着目し、かれらが抱える学修上の問題点、学士取得(学歴)に対する価値観、学位取得の杜会的効用等を調査することにより、従来型の学位の機能と現状との齟齬を明らかにする。さらには、今後の高等教育システムにおける大学と非大学高等教育機関との相互関係(境界設計)、学位と学位以外の資格証明との等価値性・互換可能性について検討することを目的としている。 上記について、平成18年度には、大学への編入学生5名、短大専攻科生6名、大学教職員4名へのインタビュー調査を実施した。その結果、編入学後の大学への適応は比較的円滑に行われているものの、最短修業年限で卒業するために編入学後の修得単位数が年60単位を超過するなど学修上の問題点が散見されること、一部の銘柄大学を除き編入学(専攻科進学)の動機は、学位(大卒学歴)の取得よりもむしろ上位の職業資格の取得にあり、学生の流動化の背景にはより短期間で取得可能な学位以外の資格証明への志向が存在すること、などが明らかになった。さらに、短大及び高専の専攻科修了生(17年度修了者)に対する質問紙調査を作成し、19年度5月中に実査を行う予定で準備を進めている。
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