平成20年度は、3つの研究を発表した。それぞれの概要は以下の通りである。 研究1(「日本の保育歌唱教秘曲集について-幼児の声域からの検討-」)では、日本における市販の教材曲集13冊を対象として、幼児の声域からその実態を検討した。幼児の声域に言及している曲集は13冊中4冊が該当した。13冊中11冊に目次の分類があったが、音域によって分類している曲集は皆無であった。幼児の声域に適合した音域の曲はもっとも多い割合で4歳児5.2%、5歳児27.8%であり、その割合は低いことを明らかにした。 研究2(「日本の手遊び教材曲集について」)では、日本における市販の手遊び7冊を対象として、幼児の声域からその実態を検討した。幼児の声域に適合した音域の曲が、50%以上収録されている教材曲集は1冊のみであり、その他の6点は40%にも満たないものであった。この結果から、今後の手遊び教材曲集に向けては、幼児の声域に適合した曲ができるだけ多く含まれることが望まれる。その具体的方法として「わらべうた」をより多く収録することを提案した。 研究3(「クラス歌唱中における個別歌唱の実態-幼稚園児を対象として-」)では、4歳児15人と5歳児18人を対象として、クラス歌唱中における個別歌唱の実態を検討した。課題曲には「地球はみんなのものなんだ」を用いた。歌声の評定は3人の音楽専攻大学生によって行われた。評定には「歌唱状況」(どのくらい歌っているのか)と「音高」(どのくらい正確な音高で歌っているのか)の2つの5段階評定尺度が用いられた。得られた知見は2つである。1つは、クラス歌唱中における個別歌唱には個人差があったことである。このことは、個人差に配慮した歌唱活動が求められることを示している。もう1つは、クラス全体の評定値よりも低い値の者が多くいたことである。このことは、保育者がクラス全体の歌声のみに着目して歌唱活動を行うことが、望ましくないことを示している。
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