鍼灸医学は膨大な医学古典や師弟関係などを基に継承・発展してきており、伝統的な治療を行うためには古典を含めた教育が必須である。しかし、我が国では明治以降医学制度の変革により鍼灸における古典教育が軽視されている状況であるが、その現状を調査した報告は皆無に等しい。そこで、アンケートを行ってその現状を分析した。 2006年4月の時点で開学している鍼灸の教育機関(全国74校)に在籍する東洋医学概論あるいは古典科目担当者を対象とした。アンケート内容は、(1)古典に対する興味の有無、(2)古典教育の鍼灸師に対する必要性、およびその理由、(3)初学者を対象とした場合の望ましい教材、(4)古典を原文を含めて教えているか、およびその科目名、(5)古典専門の科目の有無など6項目とした。以上のアンケート調査を記名式の郵送法で行った。 回収率は75.7%であった。古典教育に興味があるのは96.4%、古典教育が必要と回答したのは94.6%であった。必要な理由は、鍼灸医学の理解に必要(88.7%)、臨床に応用できる(67.9%)、鍼灸医学の発展に必要(47.2%)が上位であった。不必要な理由は、教育方針と合わない、教える時間がない、教える教員がいない、難解であるが33.3%であった。 ほぼすべての担当者が古典教育に対する興味があり、教育に必要との認識も非常に高かった。そして、さまざまな考え方や治療方法を現代に応用し、臨機応変に取捨選択・創意工夫できる教育が必要とされている。望ましい教材は「わかりやすい」「親しみやすい」が多く、図解や絵が必要という意見も複数あった。「古典を正確に読むための方法」が必要という意見も複数あったが、「文法重視」は7.5%と低かった。以上より、鍼灸医学の理解と発展のために古典教育が必要とされており、現在の学生の状況に適した教材が求められていることがわかった。
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