近年、読み理解能力を支える認知的な要因として、ワーキングメモリが指摘されている。一方、以前より読み獲得の前提条件として音韻処理能力が指摘されており、読みに特異的な困難さをもつ学習障害児(以下、読み障害児)においては、音韻処理能力の弱さとワーキングメモリ容量の制限とが報告されている。しかしながら、ワーキングメモリ容量と音韻処理能力には関連性があるのか、また読みの困難さとこれらの能力の不全との相互の関連性も明らかにされてはいない。そこで本研究では、健常児を対象として、いくつかの読みに関連する技能・能力と読解力との関連性を明らかにした上で、読み障害児の特性を検討することを目的とした。実験は、読み障害児数名と、その読み能力相当年齢にあたる小学校中学年の健常児約100名を対象として実施した。実施項目は、音韻処理技能を測定する課題(音韻削除、音韻置換え、音韻入替え)、ワーキングメモリ容量を測定する課題(カウンティング・スパンごリスニング・スパン)、流暢性課題(色RAN課題)、短期記憶課題(単語スパン)、類推的な思考力を測定する課題(非言語マトリックス)、読解、の各課題であった。健常児における実験課題間の相関分析を行ったところ、読解課題の得点は、非言語マトリックス課題を除くほとんどの課題得点と弱いあるいは中程度の有意な相関を示し、特に音韻処理技能、リスニング・スパンテスト、単語スパン課題との関連性が示唆された。現在、各項目間の関連性について、因子分析およびパス解析の手法を用いたより詳細な検討を進めている。読み障害児の結果については、意味的な手がかりを多く用いることのできる課題ほど相対的に成績が高い傾向が示され、今後より詳細な検討を進める予定である。
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