自閉症スペクトラム傷害のある子ども(以下、ASD児)の対人・コミュニケーションの支援方法に関する研究は、これらの能力が飛躍的に発達する幼児期に焦点があてられている。従来の大人による直接的な指導法よりも動機づけが高く、学習した内容の般化に優れている同年代の仲間を介した療育方法(Peer-Mediated Intervention)の、幼児期のASD児への適用を検討した研究は少ない。公立保育園に通う3〜5歳のASD児を対象に仲間を介した療育を実施し、その効果を検証した。ASD児と同じクラスの定型発達児に対人・コミュニケーションスキルを指導し、それらのスキルを使用してASD児と関わるよう指示した。一事例の実験デザインに基づき、自由遊び時間におけるASD児と仲間の行動を記録した。社会的行動のカテゴリーを作成し、記録した行動を時間見本法によりコード化した。ASD児と仲間の社会的行動の頻度をグラフ化し、療育方法の効果を判定した。仲間の社会的行動の増加に伴い、ASD児の反応行動が増加・維持する傾向がみられた。またASD児の自発的な社会的行動も徐々に増加する傾向がみられた。これらのことから、保育園の自由遊びのような比較的制約の少ない環境において、幼児期のASD児と仲間の社会的行動を促進する上で、仲間を介した療育方法が有効である可能性が示された。仲間のASD児への社会的行動を維持し、仲間の役割をクラス全体に拡げていくことが今後の課題として挙げられる。
|