研究概要 |
本年度は,文献研究と日本における予備調査を行った。文献研究では,本研究課題の内容に関連する子どもの自己主張・抑制に関して,先行研究からいくつか点が明らかになっていることが整理された。その結果,主張に関しては遊びにおいて新しい提案をする,他者からの阻害を受けたときに抗議するなどの側面,また,抑制に関しては順番を守れる,教師などの言いつけを守れるといった側面とその発達的変化が明らかにされ,また,これと場面における対人関係の要因や心の理論などの認知的要因との関連が明らかにされていた。しかし,これらの研究は主に自己に焦点化され,用いられている課題は,本課題の目的である「自己と他者の葛藤の調整」とは部分的にしか合致しない。そこで,既存の課題の一部を修正し,また,新たに作成して用いる必要があると考えられた。より具体的には,自己の要求と他者の要求とが葛藤する場面の作成である。臨床領域で盛んに論じられている「セルフ・アサーション」の考え方に基づき,これらの場面において他者の立場を考慮しながらも自己を主張するということの発達について検討することが本研究課題の目的であることが明確となった。 そこで,予備調査にて,就学前の子どもを対象に,いくつかの場面を提示し,「私だったらどうするか」についての言語報告を求めた。その結果,場面の相手,および,問題場面の性質によって,自己を主張するか,相手を立てるかが異なること,また,その方略も多様であることが確認された。 来年度は,予備調査の課題のうちいくつかを本課題として決定し,加えて,他の認知的・対人関係的要因との関連について検討する本調査を行う計画である。
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