研究概要 |
本研究では, 幼児期から児童期の子どもにおける自己-他者間の葛藤における調整(以下では, 「自他の調整」と呼ぶ)の発達と, それに関わる認知的, 対人関係的,および, 社会的要因について検討することを目的とした。より具体的には, 「自己」と「他者」の要求が葛藤するジレンマ場面(異なる性質の場面を用意)において, 場面の状況(場面の重要性,葛藤する他者とは誰か)に応じて,子どもがどのように両者のバランスを取ろうとするのかを明らかにすることをねらいにした。さらに, この自他の調整に関わる認知的, および, 対人関係的要因について検討するために, 認知的リソースの発達, 自己概念の発達, および, 異なる種類の対人関係(親, きょうだい, 友人, 教師)との関係の質についてのデータも同時に収集した。加えて, 文化的影響について考察するために, タイの日本人幼稚園においても調査を実施した。 本年度は, 前年度より引き続いて, 子どもに対する面接調査, および, 親や保育者に対する質問紙調査を実施し, 最終的に132名の幼児(3-6歳)から回答を得た。録音された発話からプロトコルを作成し, これを分析した。現在までの分析の結果明らかになった主な知見は以下の5点に纏められる。(1)年齢に従ってより自己優先的回答が減少し, 他者優先的回答が増加する。(2)自己にとって重要な場面ではそうでない場面よりも自己主張的である。(3)自己主張の発達パターンは, 葛藤の相手が友人の場合と母親の場合とでは異なる。(4)回答の理由は発達に従って異なる様相を見せ, より具体的には, 年長児はより精緻な理由づけを行う。(5)セルフ・アサーションの観点から分析すると, 自己概念と言語発達, および, 対人関係の幅の広さがセルフ・アサーションの程度と関連する。引き続き, 発話の詳細や個人差に焦点を当てた分析を継続する予定である。
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