本研究は、医療観察法に基づき、入院による処遇を受けている精神障害者の家族が、新制度のもとで障害をもつ家族が処遇されていることや家族自らが置かれている状況に対する認識、事件発生による家族の生活の変化、社会の眼差しに対する受け止め方等を明らかにすることを目的としている。平成18年度は、触法精神障害者家族および精神障害者家族についての文献研究、質的研究手法について理解、フィールド理解、研究協力者間の調整、面接調査(継続中)に取り組んだ。フィールドに慣れることを目的に、病棟が実施している家族相談会(家族心理教育)に複数回参加した。家族が抱える問題やそのことに対する不安などについて、大まかな概要をつかむことができ、リサーチ・クエスチョンを考えるうえでも有益であった。精神障害をもつ人による犯罪の場合、被害者が家族内にいることが多く、また、対象行為が殺人や放火など重大な犯罪であるため、調査の実施に当たっては、被験者および入院患者のプライバシー保護や情報管理、被験者の心理的侵襲性については細心の注意を払う必要がある。そのため、研究について倫理委員会に諮るとともに、病棟職員らの協力を得ながら研究を進められるよう、関係者の意見交換の場を数回設け、調整に時間をかけた。本研究では、研究の趣旨や目的、方法、データの使われ方、途中辞退の権利、プライバシーの保護などについて丁寧に説明し、了承が得られた家族のみを対象としている。また、データ収集・分析はGTAの手法を用いており、研究手法や解釈についてのスーパービジョンを受けながら進めている。事件を機に、医療・福祉の多くの専門職者らの支援を受けるようになり、そのことが家族の認識や行動に少なからぬ影響を与えていることや、対象行為によって家族の経験も異なることが推察された。今後継続的にデータ収集・分析を進めていく予定である。
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