素数pにおいてordinary reductionを持つような有理数体上の楕円曲線に対しては、古典的な岩澤理論におけるイデアル類群の場合と同様にいくつかの岩澤不変量を定義することが出来る。今年度はその岩澤不変量についてのいくっかの予想を考察し、新たな計算法を与えた。pが7以下の素数かもしくはp=13の場合に、楕円曲線のλ不変量の非有界性を証明し、更にその応用として有理数体上のTate-Shafarevich群の大きさに関する予想も部分的に解決したが、それらの結果を論文にまとめて出版した。年度の後半は主に、p=2の場合に楕円曲線のμ不変量の考察を行った。古典的な降下法の議論とGreenbergによるセルマー群の別表示を組み合わせることで、楕円曲線のμ不変量とある特殊な分岐条件を満たす古典的岩澤加群のμ不変量の関係を明らかにすることができた。この分岐条件付き古典的岩澤加群のμ不変量は楕円曲線のμ不変量を直接計算するよりも計算しやすいため、今回の結果はp=2の場合の楕円曲線のμ不変量の新たな計算法を与えていることにもなる。この方法を用いて楕円曲線のμ不変量の自明性に関する予想の検証を多くの実例に対して行った。実例計算には計算ソフトMAGMAを主に利用したが、高い次数の代数体での2-単数群の計算を行うためには用意されたコマンドを使うだけでなく、円単数の計算などいくつかの計算アルゴリズム・プログラムを自ら開発する必要があった。現在もより多くの計算を行えるようプログラムの改良を続けている。
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