研究概要 |
ココンパクトで離散な群作用のある非正曲率空間(CAT(0)空間)の境界の研究,および,Coxeter群の作用するDavis複体とよばれるCAT(0)空間の境界の研究において,一般に非常に複雑な構造を持つこれらの「境界」とよばれる空間の性質をとらえるために,本研究では,力学系の概念を導入して研究を行った。力学系のカオス理論において重要な概念である「攪拌集合」を,境界上の群作用に対して自然な拡張として定義し,「いつ境界は攪拌集合となるのか?」という問題に取り組んだ。その結果として,まず,群作用のあるCAT(0)空間の境界が攪拌集合となるための十分条件をいくつか得た。今回得られた十分条件は,これまでの研究で得ていた「境界が極小集合となる」ための十分条件と非常によく似た形の条件であり,境界の「攪拌集合」と「極小集合」の間の関係については,今後の興味深い課題である。また,逆に,「境界が攪拌集合とならない」ための十分条件も得た。CAT(0)空間が本質的な部分で積に分解するとき,境界は攪拌集合とはならないことを示した。本研究の現時点での重要な問いは,「境界が攪拌集合となるための必要十分条件は,CAT(0)空間が本質的に積に分解しないことか?」という問題であり,今後,この問題に取り組みたい。この問いは,「CAT(0)空間が本質的に積に分解するような単純な構造をもたなければ,その境界は,力学系の意味合いにおいて,非常に複雑な構造をもつのではないか?」という意味をもつ。この問題に対して,特に,Coxeter群の作用するDavis複体の境界に関しては,right-angledという条件の下で,この問題を肯定的に解決することに成功している。今回得られた研究成果を基に,今後,さらに発展させて行きたい。
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