研究概要 |
数学解析と情報理論を用いて偏微分方程式及び確率微分方程式の逆問題の研究を行ってきた.具体的には工学・医学等に現れる偏微分方程式および確率微分方程式を対象として取り扱った.工学・医学などに現れる具体的な逆問題では実験環境下のために入力データや計測データ等にノイズが混入することは不可避である.しかしながら,これまで我々が取り扱ってきた微分方程式の逆問題では入出力システムにノイズが入らないという理想的な状況下で問題設定を行い,その理論的研究を行ってきた.このような問題設定のものでは,初期値に対する安定性評価や逆問題の解の正則性と一意性等について一定の成果が得られている.これに対して今回は研究課題として確率微分方程式を対象とすることで,ノイズ影響下での逆問題に対する数学解析の枠組みを構築することを取り上げた.このような逆問題研究の中で具体的な背景をもつものとして,脳内における単一の神経細胞の活動を詳細に調べることが挙げられる.大脳皮質の神経細胞の膜電位は,生体内では非常にランダムな活動を行うことが知られている.このランダムな変化は従来より確率微分方程式の数理モデルを用いて表現されている.これ対して,上述の数理モデルである確率微分方程式で記述される入出力システムにおいて解に相当する出力データ(膜電位の変化)の観測から入力信号(シナプスからの外部入力)を推定する問題を数値計算を用いて取り組み,一定の成果を得た.この様な確率微分方程式に対して,数値計算手法を提案し実際にその係数の値を計算機で求められることを確認した.さらにそのとき数値的に求めた係数のデータを用いて,実際に神経細胞が受けていた「シナプスからの外部入力」を高精度に計算する手法を提案し成果を得た.
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