2008年度に得た主要な結果は(1)同時測定に関する不確定性原理(2)量子コルモゴロフ複雑性の量子暗号への適用、の二つである。(1)において私は最も一般的な物理量のクラスであるPOVMの組に対して初めて操作論的に意味のある不等式を導くことに成功した。これはR. F. Wernerの定式化を用いたものであるが、そこでの解析は量子調和解析を用いており粒子の位置と運動量しか扱えなかったのに対し、我々の方法はCP写像に関するCauchy-Schwarz不等式を用いた一般的なものであり、その結果すべての離散的なPOVMを扱えることに特徴がある。この副産物として、同時測定可能な物理量の特徴づけ(必要条件)も得られる。この導出は2007年度までに得られた不確定性関係(Landau-Pollak型及び情報撹乱定理)とは異なるセッティングと手法を用いており、同時測定に関する一般論を初めて展開したものである。(2)において、私はアルゴリズム的情報理論に由来する量子コルモゴロフ複雑性を用い、暗号の安全性を定義した。また、BB84量子鍵分配プロトコルがその安全性を実際に満たすことを示し、鍵生成レートの評価も行った。量子に限らず古典においてもアルゴリズム情報理論を暗号に用いたのはおそらく初めてのものである。
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