従来の研究で、笠原(研究代表者)は定常確率過程の有限予測問題に対する新しい解析手法を開発し、それを時系列解析、確率解析、金融工学等の様々な問題に応用してきたが、その一連の研究の中で、時間依存構造を反映する幾つかの重要な量(例えば、偏相関係数=Verblunsky係数)が美しい表現を持つことを発見した。その表現の背後にある仕組み、特に完全非決定性との関連を理解することは本研究の主要な目的の一つである。昨年度までの研究では、完全非決定性の下、Verblunsky係数のphase係数(いわゆるphase関数のFourier係数)による表現定理を証明し、また、直交多項式の理論における主要な結果であるBaxterの定理、Ibragimovの定理をphase係数の言葉で特長付けた。完全非決定性を明らかにするためには、rigidityに対するより深い理解が必要不可欠であるが、今年度の研究では、まず、その性質をphase係数によって特徴付けた。また、Nehari問題に対するAdamyan-Arov-Kreinの結果に関連する諸問題について研究し、その観点から昨年度までに得られた結果を見直すことにより、更に深い理解が得られた。実際、Nehari問題から完全非決定的定常過程が自然に現れるが、そこからVerblunsky係数とphase係数の間の一対一対応が得られることが分かった(その対応が正に本研究の中心である)。また、Verblunsky係数の時間発展はphase係数のシフトと同等であることが明らかになった。特に、この結果はSchurのアルゴリズムと密接に関係しており、rigidityに関連する分野において新しい見地を与える。これを手がかりにして、今後もphase係数の延長問題などに取り組み、完全非決定性、rigidityに対する研究を継続する。
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